「もう無理をしない」が消費を動かす? 2026年夏に見えた「メンパ」という新しい選択基準|感情が動くマーケティング

更新日:2026年09月11日(金)

夏の消費行動の振り返りと予想

女性にとっても厳しい夏、消費はどう変わるのでしょうか。

「今年の夏は、もう無理をしない」。

2026年の夏が、終わりに近づいています。今年も厳しい暑さが続くなか、気象庁は8月3日、7月中旬〜下旬の西日本の平均気温が、統計開始(1946年)以降で最も高い記録になったと公表しました。生活者の消費を見ていると、ある変化を感じます。
何でも節約するのではなく、「削るもの」と「守るもの」を、これまで以上にはっきりと選ぶようになっているのではないでしょうか。

毎月当たり前のように続けていた美容を見直す。なんとなく参加していた飲み会には行かない。
気を遣う人との予定を減らす。一方で、自分が本当に楽しみにしている体験や、大切な人と過ごす時間、自分を回復させるための支出は守る。
一見すると矛盾しているようですが、そこには「コスパ」や「タイパ」だけでは説明しきれない、もう一つの判断基準があるように感じます。
守ろうとしているのは、お金でも時間でもなく、「心の余力」。

今回は2026年の夏を振り返りながら、働く女性たちの「やめたい」という声も手がかりに、これからの消費を動かす新しい評価軸について考えます。

削る消費、守る消費—夏の財布に表れる「自分にとっての優先順位」

削る消費、守る消費—夏の財布に表れる「自分にとっての優先順位」

暑い中ついつい頼んでしまうデリバリーは節約の敵⁉

物価が上がれば、生活者は支出を見直します。しかし、そこで起きるのは単純な「安いものへのシフト」だけではありません。
むしろ注目したいのは、「何を削り、何を削らないのか」です。

たとえば、日常的に惰性で続けてきた支出は見直す一方で、自分が本当に楽しみにしている旅行やレジャー、大切な人との食事、自分へのご褒美などにはお金を使う。
ここには、「節約する/しない」という二択では説明できない消費があります。

今回、マイナビ社内の22〜34歳の女性社員27人に「この夏、やりたくない・やめたいこと」を自由回答で聞きました。定量調査ではなく、仮説を立てるための声として読んでいただければと思います。

・「ひとりでテイクアウトフードを買うことは節約のためにやめたい。でも友人との外食ではケチりたくない」
・Uber Eatsやタクシーへの支出を減らし、その分を「投資や推し活代に回したい」

つまり、消費そのものを減らしたいわけではないのです。

自分にとって満足度の低い支出を削り、その分を「自分にとって意味のあるもの」へ振り向ける。物価高の時代だからこそ、生活者の財布には、その人自身の価値観がより鮮明に表れるようになっています。

マーケターが見るべきなのは、「節約志向が高まっている」という大きな括りだけではなく、「それでも、この人が削らないものは何なのか」なのかもしれません。

 

「頑張る美容」から「整える美容」へ —猛暑が変えたケアの目的

「頑張る美容」から「整える美容」へ —猛暑が変えたケアの目的

通勤するだけで汗でメイクが落ちて朝からゲンナリすることも。

この夏、その変化がわかりやすく表れていた領域の一つが美容です。

猛暑の日に、時間をかけて髪を巻く。丁寧にメイクをしても、駅まで歩けば汗をかき、会社に着くころには崩れている。
日焼け止めを塗り直し、前髪を整え、化粧直しをする。
これまで「身だしなみ」として当たり前に行ってきた女性の行動が、今年の猛暑によって一気に“負担”として可視化されました。

今回の自由回答でも、

・メイク。どうせ汗で流れるので簡素にしたい
・髪を巻いても崩れる
・日焼け止めを塗りたくない
・ジェルネイルをやめた
・パンプスを履くことをやめたい

といった声が見られました。

ただし、これを「美容への関心が薄れた」と見るのは少し違うように思います。
彼女たちがやめたいのは、きれいになることではなく、「きれいでいるために無理をすること」なのではないでしょうか。

以前この連載では、働く女性の健康意識について「頑張る健康」から「整える健康」への変化を取り上げました。

美容にも同じ変化が起きていると考えると、わかりやすいかもしれません。

“盛る”ために工程を増やすより、崩れることを前提に工程を減らす。
完璧な状態を一日キープするより、肌そのものを整える。
時間をかけてきれいになるより、少ない負担で「自分が心地よい状態」を保つ。

「頑張る美容」から「整える美容」へ。猛暑は、美容の目的そのものを問い直すきっかけにもなっているのではないでしょうか。

 

コスパでもタイパでもない。「メンパ」という新しい評価軸

コスパでもタイパでもない。「メンパ」という新しい評価軸

夏の出勤を回避しテレワークを望む女性も増加。

では、生活者は何を基準に「やめるもの」と「残すもの」を選んでいるのでしょうか。そこで考えたいのが、コスパ、タイパに続くもう一つの視点です。

ここで補助線になるのが、2026年に入って使われ始めた「メンパ(メンタルパフォーマンス)」という言葉です。

コスパが「使ったお金に対して、どれだけ価値を得られるか」。
タイパが「使った時間に対して、どれだけ価値を得られるか」。

それに対してメンパは、
「その選択によって、自分の心がどれだけ消耗しないか」という評価軸です。

今回のアンケートで象徴的だったのが、「出社したくない」という回答でした。
理由を聞くと、単に「暑いから」ではありません。日焼け止めを塗り、日傘を持ち、ハンディファンを持ち、汗を拭き、崩れたメイクや前髪を直す。
ある回答者は、夏の出社について「持っていくものが多すぎます」と答えています。
夏には、こうした「名もなきタスク」が大量に発生します。そして重要なのは、一つひとつを時短することだけではありません。

生活者の本音は、
「そもそも、それをやらなくて済むようにしてほしい」
なのかもしれません。

さらに今は、買い物そのものにも「選ぶ」という負担があります。
商品を比較する。口コミを見る。SNSで検索する。失敗しないように調べる。自分に合うものを探す。
選択肢が増えるほど便利になる一方で、選ぶこと自体が小さな労働になっているとも言えます。

だからこそ、「これを選べば大丈夫」「これ一つでいい」「もう考えなくていい」という価値が、以前より強くなっていく。
コスパでもタイパでもなく、心を消耗させないこと自体に価値を感じる消費。
それが「メンパ」という視点なのかもしれません。

 

「頑張らない」を肯定してくれるブランドが選ばれる

「頑張らない」を肯定してくれるブランドが選ばれる

今後、注目したい“頑張らない消費”とは?

メンパという視点で考えると、マーケティングコミュニケーションにも変化が必要です。
これまで広告は、生活者に「もっと」を提案してきました。

もっときれいに。
もっと健康に。
もっと充実した毎日を。
もっと自分らしく。

もちろん、前向きなメッセージが人を動かすことは今後も変わりません。
しかし、心の余力が少ないとき、「もっと頑張ろう」は新たな負担になることもあります。そんなときに心を動かすのは、

「今日はこれでいい」
「全部やらなくていい」
「頑張れない日は、頑張らなくていい」

といった、“許可を与える言葉”なのではないでしょうか。
ここでポイントになるのは、単に「時短」や「手抜き」を訴求することではありません。

生活者が時短商品を使ったときに、
「本当はちゃんとやったほうがいいけれど、今日は時間がないから仕方ない」
と思わせてしまえば、心の負担は残ったままです。

そうではなく、「これで十分」と思える理由までブランドが提供する。
つまり、商品によってタスクを減らすだけでなく、「やらないことへの罪悪感」まで取り除く。
これからのブランドには、そんな役割も求められるのではないでしょうか。

 

夏疲れ市場という空白 ——これから始まる「リカバリー消費」

夏疲れ市場という空白 ——これから始まる「リカバリー消費」

多忙な女性が望む“リカバリー消費”とは?

そして2026年の夏が終わりに近づく今、もう一つ注目したいのが「リカバリー消費」です。
夏の消費というと、UV対策、冷感グッズ、旅行、レジャーなど「夏をどう乗り切るか」「どう楽しむか」に注目が集まりがちです。

しかし、8月末から9月にかけて生活者が感じるのは、「夏を乗り切った後の疲れ」ではないでしょうか。

暑さで眠れない。
冷房で身体が冷える。
外出だけで疲れる。
食欲が落ちる。
予定を詰め込みすぎて疲れる。

こうした状態になったとき、求められるのは「もっと楽しむための商品」ではなく、「元の自分に戻るための商品」です。
睡眠、入浴、温活、リラクゼーション、セルフケア、一人で過ごす時間、何もしない休日。
これまで「ご褒美消費」と呼ばれてきたものの一部も、今後は「回復するための必要経費」として捉えられるようになるかもしれません。

ここでもメンパという視点が生きてきます。「何をすると楽しいか」だけではなく、
「何をすると、心の余力を取り戻せるか」。晩夏から秋に向けて、生活者の「回復したい」という感情は、さまざまなカテゴリにとって新しい市場機会になりそうです。

 

生活者の「やめたい」を、マーケティングの起点に

2026年の夏を振り返ってみると、「暑かった」という一言だけでは説明できない変化が見えてきます。
生活者は、何でも節約しようとしているわけでも、何でも時短したいわけでもありません。

「自分にとって大切ではないことに、これ以上心を使いたくない」。

その一方で、本当に好きなこと、大切な人との時間、自分を回復させてくれるものには、お金も時間も使いたい。
だからこそ、これからマーケターが考えたいのは、「何を欲しがっているか」だけではありません。

  • 自社の商品やサービスは、顧客に何かを頑張らせていないか。
  • その商品によって、顧客が「やらなくてよくなること」は何か。
  • そして自社のブランドは、「もっと頑張ろう」ではなく、「もう頑張らなくていい」と言える部分があるか。

平成に定着した「コスパ」、令和に広まった「タイパ」。その先にある、「心を消耗しない」という価値。
生活者の「やりたい」だけでなく、「もう、やりたくない」という感情に目を向けること。

そこに、これからの商品開発やコミュニケーションを考えるヒントが隠れているのかもしれません。

 

この記事を書いた人
マイナビベアの写真
桑野 好絵(くわの・このえ)|株式会社マイナビ
2007年マイナビ入社。 女性向けメディアや若年層トレンド領域に従事し、現在は『マイナビニュース』『マイナビウーマン』などの広告企画を担当。 Z世代に特化した調査チーム「マイナビティーンズラボ」のプランニングやデータ解説、企業向けの講演も行う。 高校2年生の息子を育てる母として、「調査データ」と「リアルな声」の両面から若者インサイトを掘り下げている。

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