「何分浮いたか」より「何回考えなくて済んだか」 子育て世帯の”メンパ”と、夏休み明けのコミュニケーション|「感情」が動くマーケティング

更新日:2026年09月18日(金)

「何分浮いたか」より「何回考えなくて済んだか」 子育て世帯の"メンパ"と、夏休み明けのコミュニケーション

「時短家電も買った。ミールキットも使っている。それなのに、なぜか毎日ギリギリだ」。

共働き世帯が当たり前になり、家事や育児を効率化する商品やサービスも増えました。
ボタンひとつで掃除をしてくれる家電、献立を考える手間を減らしてくれるミールキット、スマートフォンから頼める家事代行。
以前と比べれば、私たちはたくさんの「時短」を手にしています。それでも、親たちに十分な余裕が生まれたとは言い切れないようです。

ベビーシッター・家事代行の「キッズライン」が2026年4月、共働き(産休・育休含む)の母親103名に実施した調査では、82.6%が「日々の生活に余裕がない」と回答しました。
場面の上位は「ワンオペ育児・家事」(56.7%)、「自分の時間が持てない」(51.7%)、「子どもの急な体調不良」(49.2%)です。
見逃せないのは、同じ調査で「ここ1〜2年で子育てや働き方を取り巻く環境が良くなっている」と感じる人が66.7%に達している点です。
制度も選択肢も改善している実感はある。それでも8割が余裕がない。この二つが同時に成立していることが、いまの共働き育児の難しさを表しています。

便利なものは、確実に増えている。それなのに、なぜ私たちは楽になりきれないのでしょうか。
もしかすると、いま子育て世帯に足りないのは「時間」だけではないのかもしれません。
今回は、タイパだけでは測れない「心の余力」という視点から、子育て世帯の消費と、これからのブランドやサービスの役割について考えます。

時短したはずなのに、空いた時間はどこへ行った?

「何分浮いたか」より「何回考えなくて済んだか」 子育て世帯の"メンパ"と、夏休み明けのコミュニケーション

あっという間に30分は過ぎていきます。子育てをしながら働いていると、「あと30分あれば」と思う場面が何度もあります。
だからこそ、家事を効率化してくれる商品やサービスはありがたい存在です。
ロボット掃除機が床を掃除してくれる。乾燥機に洗濯物を任せる。夕食には冷凍食品やミールキットを取り入れる。ネットスーパーなら、仕事帰りにスーパーへ寄る必要もありません。
確かに、一つひとつの家事にかかる時間は短くなっています。

ところが、夕食づくりで30分浮いたとしても、その時間で学校からのお知らせを確認し、翌日の持ち物を準備し、子どもの宿題を見ているうちに、あっという間に30分は過ぎていきます。

ようやく子どもが寝たと思ったら、明日の予定を確認し、「そういえば牛乳がない」「体操服を洗わないと」「週末の習い事は何時だったっけ」と、頭の中では次のタスクが始まっています。
つまり、時短によって生まれた時間が、そのまま「余裕」になるとは限らないのです。

家事にかかる時間は減っても、家族のために考え続ける時間までは、なかなかなくならない。

ここに、共働き育児がなかなか楽にならない理由のひとつがあるように思います。
親を疲れさせているのは「家事」だけではなく、「考える家事」かもしれません。

夕食づくりを例に考えてみましょう。料理には、食材を切る、焼く、煮るといった目に見える作業があります。
しかし実際には、キッチンに立つ前から家事は始まっています。
今日の夕食を何にするか。昨日は魚だったから今日は肉にしようか。冷蔵庫に何が残っていたか。子どもが食べられるものは何か。栄養バランスは大丈夫か。帰宅途中に何を買えばいいか。

こうした「考える」「覚えておく」「段取りする」という作業は、目には見えにくいものの、毎日の生活の中で繰り返し発生しています。
実際、冷凍宅配食ブランド『三ツ星ファーム』の調査(2026年4月、共働き世帯800名)では、食事準備で最も負担に感じる工程は、男女ともに「献立の決定」でした。特に女性は53.1%と、2人に1人が献立づくりにストレスを感じています。
つまり、「料理すること」だけではなく、料理する前に考え続けることそのものが負担になっているのです。

海外でも、こうした家事の「認知的な負担」に注目した研究があります。
幼い子どもを持つ母親322名を対象とした米国の研究では、家庭内の30の家事について、計画や段取り、家族のニーズの把握といった「認知的家事労働」の約73%を母親が担っていると報告されています(パートナーは27%)。
そしてこの認知的負担は、抑うつ、ストレス、燃え尽きなどと関連していました。

なお、これは一時点の自己申告にもとづく調査であり、因果関係を示したものではありません。
それでも「手を動かす家事」以上に「考える家事」が偏りやすいという傾向は、示唆として重く受け止めたい結果です。
手を動かしていない時間にも、頭の中ではずっと家事が続いている。
そう考えると、単純に「家事にかかる時間を10分短縮しました」だけでは、親が感じる負担のすべてを解消できない理由が見えてきます。

 

時短の価値は「何分浮いたか」から「何回考えなくて済んだか」へ

「何分浮いたか」より「何回考えなくて済んだか」 子育て世帯の"メンパ"と、夏休み明けのコミュニケーション

ここまで考えると、ミールキットや冷凍食品の価値も少し違って見えてきます。
例えばミールキットによって調理時間が20分短くなったとします。もちろん、それだけでも十分ありがたい。

でも、本当の価値は20分という数字だけではないのかもしれません。
「今日、何を作ろう」と悩まなくていい。必要な食材を考えなくていい。スーパーの売り場を歩きながら献立を組み立てなくてもいい。
つまり、商品が肩代わりしているのは作業だけではなく、判断そのものでもあるのです。

これまで時短商品は、「○分で完成」「家事時間を○分削減」といったタイパの文脈で価値を伝えることが多くありました。
しかし、これから子育て世帯にとって重要になるのは、時間をどれだけ短縮できるかだけではなく、「何回考えなくて済んだか」「どれだけ頭の中を空っぽにできたか」なのではないでしょうか。

ここで注目したいのが、近年、商品やサービスの文脈でも使われ始めている「メンタルパフォーマンス(メンパ)」という考え方です。
コスパやタイパのように確立された言葉ではありませんが、時間効率だけではなく、ストレスを減らしたり、心の余裕を生み出したりする価値に目を向ける考え方として捉えることができます。
子育て世帯に置き換えるなら、「心をすり減らさないための消費」と言えるかもしれません。

 

「手抜きしていいのかな」が、せっかくの時短を邪魔してしまう

「手抜きしていいのかな」が、せっかくの時短を邪魔してしまう

もうひとつ、子育て世帯のメンパを考えるうえで無視できないのが「罪悪感」です。
便利なものを使えば楽になると分かっている。それでも、いざ使おうとすると迷ってしまうことがあります。
「夕飯くらい自分で作ったほうがいいのではないか」「冷凍食品ばかりではよくない気がする」「家事代行をお願いするほど大変なわけではない」。
そんなふうに、自分自身にブレーキをかけてしまうのです。

実際、同調査では全体の72.9%が、総菜や冷凍食品、宅食サービスを夕食に出すことに罪悪感を抱くと答えています。
興味深いのは、その罪悪感が母親だけのものではないことです。
「常に・しばしば感じる」という強い抵抗感は、女性40.0%に対して男性56.9%と、男性のほうが16.8ポイント高い。
一方で、パートナーがそうした食事を用意した場合について、女性の3人に1人以上は「用意してくれるだけでありがたい」と答えています。
出す側が抱えている後ろめたさと、受け取る側の評価。この二つには、思っている以上に開きがあるのかもしれません。

もちろん、家事代行などを利用しにくい理由は心理面だけではありません。費用やプライバシーへの不安など、現実的なハードルもあります。
だから、「罪悪感さえなくなれば、すべて解決する」という単純な話ではありません。

それでも考えたいのは、せっかく時間を生み出す商品を使っても、その選択に後ろめたさを感じてしまえば、心まで軽くなるとは限らないということです。
時間を短縮するだけでなく、その商品を使うこと自体を肯定できること。
ここまで含めて初めて、時短が「心の余裕」につながるのではないでしょうか。

 

選択肢を増やすことが、親切とは限らない

メンパという視点に立つと、商品やサービスの設計も変わって見えてきます。
これまでマーケティングでは、「豊富なラインナップから好きなものを選べること」は大きな価値とされてきました。
けれども、一日中仕事で判断を繰り返し、帰宅してからも夕食や子どもの予定を考え続けている人にとって、「30種類からお好きなメニューをどうぞ」は、本当に親切なのでしょうか。
むしろ「平日の5日間はこれで大丈夫」「迷ったらこれを選べばOK」と示してもらえるほうが、ありがたい場面もあります。

選択肢を増やすことだけが顧客体験ではありません。ブランドやサービスが生活者に代わって、少しだけ考えてくれること。
それも、忙しい子育て世帯に提供できる価値になりそうです。

「たくさんの中から選べます」から、「ここに任せておけば大丈夫です」へ。
商品そのものだけでなく、購入までの導線やECサイト、定期購入、レコメンドのあり方にも、メンパという視点は応用できるのではないでしょうか。

 

「もっと頑張れる」ではなく、「これでいい」と言ってくれるブランドやサービスへ




「もっと頑張れる」ではなく、「これでいい」と言ってくれるブランドやサービスへ

そして、商品設計以上に考えたいのが、ブランドやサービスから生活者への言葉です。
子育て世帯向けの商品では、「忙しいママでも簡単」「たった10分で栄養満点」「家事を効率化して家族との時間を増やそう」といったメッセージをよく目にします。
どれも善意から生まれた言葉です。
しかし、余裕を失っている人にとっては、「10分浮いたのだから、その10分でもっと家族のために何かをしましょう」と聞こえてしまうこともあるかもしれません。

それでは、いつまでたっても休めません。浮いた10分は、子どものために使ってもいいし、自分のために使ってもいい。何もしなくてもいい。
ブランドやサービスがそこまで決める必要はないはずです。

だからこそ、これから必要なのは「もっと効率よく頑張れる」というメッセージだけではなく、「今日はこれで十分」と思わせてくれるコミュニケーションなのではないでしょうか。
冷凍食品を使った日も、ミールキットに頼った日も、家事代行をお願いした日も、それは「できなかった日」ではありません。

ブランドやサービス自身がその選択を肯定する。
時短という機能価値に加えて、それを選んでも大丈夫だと思える心理的な許可まで届けることが、これからの子育て世帯との関係づくりには必要なのかもしれません。

 

夏休みを走り切った9月だからこそ、「また頑張ろう」と言わない

9月は、この「心の余力」について考えるのにちょうどいいタイミングでもあります。
子どもの夏休み中は、普段の仕事や家事に加えて、昼食の準備や学童、習い事、旅行や帰省など、家庭内のタスクが増えます。
実際、前掲の同調査で長期休暇に負担が増えることを尋ねると、40.5%が「子どもの食事の献立検討・準備・片付け」を挙げています。給食がなくなることで、ここまで見てきた「献立を考える」負担が一日三食分に膨らむわけです。

そして夏休みが終わると、子どもは学校へ戻り、家庭も通常運転に戻ったように見えます。
でも、親の疲れまで新学期にリセットされるわけではありません。
だからこの時期、ブランドやサービスが「秋からまた頑張りましょう」と声をかけることだけが正解ではないと思います。

「夏休み、お疲れさまでした」
「今週くらい、少しラクをしてもいい」

そんなふうに、次の行動を促す前に、まず生活者の現在地を認める。
季節マーケティングでは、「次に何を買ってもらうか」「次に何をしてもらうか」を考えがちです。
しかし、消費者が今どれくらい心の余力を残しているのかまで想像することも、これからは必要なのではないでしょうか。

 

ブランドやサービスが売るべきは、「時間」だけではない

共働き育児の大変さは、時短家電や便利なサービスひとつで解決できるほど単純ではありません。
だからこそ、ブランドやサービスにできることを「○分短縮する」だけに限定する必要もないはずです。
献立を考えなくていい。選択肢に迷わなくていい。今日くらいは頼っていいと思える。

そんな小さな余白をつくることも、生活者に提供できる価値です。
コスパが「お金を無駄にしない」という視点で、タイパが「時間を無駄にしない」という視点だとすれば、その先には、「自分の心をすり減らさない」という選択があってもいい。
これから子育て世帯に商品やサービスを届ける企業は、一度、自社のコミュニケーションを振り返ってみてもいいのではないでしょうか。

その商品は、本当に親をラクにしているでしょうか。
そして、その広告は知らず知らずのうちに、「もっとちゃんとやろう」「浮いた時間でもっと頑張ろう」と親を追い立ててはいないでしょうか。
共働き育児を少しだけ「無理ゲー」ではなくするのは、親にさらに頑張る方法を教えるブランドではなく、「今日はこれでいい」と言ってくれるブランドなのかもしれません。

 


参考・出典

  • 三ツ星ファームによる調査(株式会社イングリウッド)「子育て世帯の家事・育児に関する調査」
    (調査時期:2026年4月28日/小学生以下の子どもと同居する共働き世帯の25〜49歳男女800名[女性480名・男性320名]/インターネット調査)
    https://mitsuboshifarm.jp/
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000118.000026850.html
  • 株式会社キッズライン「共働き家庭の負担と解決の糸口に関する調査」
    (調査期間:2026年4月17日〜23日/共働き[産休・育休含む]の母親103名/インターネット調査)
    https://kidsline.me/contents/news_detail/864
  • Aviv, E., Waizman, Y., Kim, E., Liu, J., Rodsky, E., & Saxbe, D.「Cognitive household labor: gender disparities and consequences for maternal mental health and wellbeing」Archives of Women’s Mental Health
    (2024年オンライン公開/幼児を育てる母親322名を対象)
    https://doi.org/10.1007/s00737-024-01490-w

 

この記事を書いた人
マイナビベアの写真
桑野 好絵(くわの・このえ)|株式会社マイナビ
2007年マイナビ入社。 女性向けメディアや若年層トレンド領域に従事し、現在は『マイナビニュース』『マイナビウーマン』などの広告企画を担当。 Z世代に特化した調査チーム「マイナビティーンズラボ」のプランニングやデータ解説、企業向けの講演も行う。 高校2年生の息子を育てる母として、「調査データ」と「リアルな声」の両面から若者インサイトを掘り下げている。

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